2025年度 理事長所信

2025年度一般社団法人佐賀青年会議所
第70代理事長 古賀修平


「Imagine」
~想像の翼で未来を創造しよう~


はじめに

 2011年4月、私は社会人としてのスタートを佐賀の地で切りました。幼少期から長く関東に在住していたため、また入社直前には東日本大震災が発生し、大変な不安を胸に佐賀空港に降り立ったことを今も思い出します。
 見知らぬ土地での営業に明け暮れる日々、本当に多くの方にお叱りを受け、また歓迎され、結果として多くのご縁をいただくことができました。そんな数年間を経て心中に去来したのは、ご縁をいただいた方々への感謝の思いでした。他所から来た私を多くの方々が歓迎くださり、また惜しみない愛情をもってそれぞれの"佐賀"を教えてくれました。バブル期の繁華街の賑わい、ノーマークだった佐賀北高校が甲子園で優勝した当時の熱気、佐賀鍋島藩の誇るべき「葉隠」その地位回復までの道のり。様々なお話を拝聴しながら、様々な佐賀の"あの瞬間"を想像の世界で追体験し、地域とそこに暮らす人びとに対しての愛着を深め、自分は何が出来るのだろうかと考えていました。その後一度転勤で上京したものの、本業を通じ佐賀に恩返しをしたいという想いが日に日に強くなり、心機一転佐賀に舞い戻り、こうして今日を迎えています。


 私が青年会議所の門を叩いたきっかけは、決して社会貢献、自己成長という高邁な精神からではなく、佐賀青年会議所を卒業された先輩からの紹介というありふれたものでした。しかし入会したからには、青年会議所だからこそ出来る、地域そして青年会議所という組織にも一石を投じられるような運動を行い、地域におけるそのプレゼンスを高め、佐賀を、社会をより佳くする事を最優先に考え、事業等に取り組んでまいりました。
 活動を続ける中で、結果として多くの知己を得、また自身にとっても大きな成長の機会をいただくことができました。私たちの運動の原点は地域に在り、同じ志のもと集った仲間とこれほどの密度で明日の佐賀を話し合い、運動を展開していく団体は他に類を見ないものと今も考えています。


 佐賀はその昔、佐賀藩(肥前藩、鍋島藩)として、幕末には薩長土肥と言われるように雄藩の一つに数えられ、明治期にも多くの元勲を輩出してきました。その中で、内閣総理大臣を二度務め、早稲田大学を創設した大隈重信侯は「諸君は必らず失敗をする、随分失敗をする、又成功があるかも知れませぬけれども、成功より失敗が多い、失敗に落胆しなさるな、失敗に打勝たなければならぬ。」という言葉を残しています。まさにこの精神性こそが、青年会議所の運動を支え続けてきた大変に重要な要素であり、また20歳から40歳までという限られた期間しか活動を出来ない私たちの特権であると確信しています。
 そもそも、社会活動における失敗とは何でしょうか。経済学の巨人、ジョン・K・ガルブレイスは1978年に経済思想史の名著『不確実性の時代(The age of uncertainty)』を出版しました。現代もVUCAの時代と言われるように社会はその不確実性を一層増していますが、50年近く前から既に、経済学の観点から、個人や組織が拠り所としていた主義思想がその唯一性、確実性を失っており、またその流れは不可逆的であり、寧ろ加速度的に進行しているのだと推察されます。
 物事が正しいか誤っているか、即ち"失敗"の定義は、全ての人びとが納得するその確固たる根拠、論拠を失った今、最終的には、他ではない自分自身に求めなければならないのだと考えます。それは誤解を恐れずに言えば、もはやその決断、行動に明確な正解や失敗は存在せず、或いは長い時間を経て初めて遡及的な形でしか評価できないという事なのかもしれません。
 いま、私たちはボタン一つで世界中の誰とでも瞬時に繋がることができます。しかし、SNSなどコミュニケーションツールの普及は私たちを真に幸せにしているのでしょうか。資産の多寡、"いいね!"の数、定量的に測定可能なそのどれもが、人びとの幸せを絶対的に担保するものではないと考えます。成功や失敗の定義は人それぞれですが、少なくとも、自身の評価をSNSを通じ他者に委ねたり、自宅と会社を往復するだけの毎日に"生"を実感できない、このような社会は、私たち青年会議所が目指した明るい豊かな社会ではないという事は自明です。地域に、社会に、今まで以上にリーダーが求められています。


 幸いなことに私たちは、JC宣言文にもある通り、「輝く個性が調和する未来を描き」、明るい豊かな社会を実現する事を宣誓しています。私たちは、画一的な、造られた幸せの偶像を追い求める事を止め、共に時を重ねる家族、仲間、社会に想いを巡らせ、人びとの笑顔を想像しながら、真白なキャンバスにその未来を描く、地域のリーダーになることが出来るのです。また、不確実性の時代であるからこそ、一地方における一個人、一団体の取り組みが、世の中に大きなインパクトを与えることが不可能ではないという、不確実性のポジティブな面に光を当てることも忘れてはいけません。
 私たちは、失敗を恐れず、寧ろ愛するぐらいの想いをもって、訪れる様々な機会を脅威ではなく好機と捉え、チームで積極的に挑戦をしてまいります。


公益社団法人日本青年会議所 第74回全国大会 佐賀大会主管について

 2025年10月には、公益社団法人日本青年会議所 第74回全国大会佐賀大会が佐賀の地で開催され、佐賀青年会議所はその主管をする予定となっております。私たちは主催である日本青年会議所に対し、その運動を力強く推進する一助となることが出来る機会をいただけた事に深く感謝し、その一年間の運動の検証、継承の場である全国大会を、主管としてより有効なものにすべく全力で取り組む所存です。
 その一方で、私たちは、この機会を「ひとつの事業」で終わらせるのではなく、佐賀の食・観光・文化など多面的な魅力や、地域のポテンシャルを全国のJAYCEE及び地域住民に発信し、大会終了後も地域に根付く運動へ昇華し得る記念事業の実施、また佐賀に於けるMICE誘致において大きな課題である運輸・宿泊面などについて、地方都市の社会インフラデジタル化事業や、多くの方を迎え入れる為の宿泊施設や運輸機関との関係性構築など、佐賀での大規模事業開催時の一つのモデルケースとなれるようその準備に取り組んでまいります。


また、所謂「小LOM」でもその大会の質を落とす事無く主管できるのだという、持続的な全国大会の実施に挑戦します。具体的には、先述の運輸並びに宿泊施設を含むハード面の課題、大会準備及び開催時に於ける人的資源並びに負担への対応、大会主管にかかる金銭的負担への対応、以上三点の課題に対し重点的に取り組みます。
 佐賀青年会議所では、大会主管立候補時から本年まで、全国大会に焦点を当てた取り組みを行ってまいりました。佐賀ブロック協議会並びにブロック内各LOMとの大会主管に係るパートナーシップ協定の締結、大会時に於ける県内教育機関の学生ボランティア参画計画の推進、行政機関との事業共催や人材輩出など多面的な連携、佐賀県ふるさと納税指定先CSO及び企業版ふるさと納税対象事業への認定など、課題解決のため各種関係団体との連携体制の深化と、佐賀青年会議所としての様々なツールを拡充させてきました。
 これらの前提として、全国大会が有する主催者益、主管益、参加者益、地域益、社会益という5益を主管の立場でいかに最大化するか、三度にわたる対話集会並びに現地調査を含む全国大会主管に係る準備に関わった歴代理事長を始めとする全てのメンバー、関係者の方々が、どのような全国大会当日を、また大会終了後の佐賀の街を想像しながら運動を展開されていたのか、その想いを確りと継承しながら、当該年度としてその主管、準備に向け日一日と邁進して参ります。


一般社団法人佐賀青年会議所設立70周年に向けた準備について

 一般社団法人佐賀青年会議所は1956年に設立され、本年で69年目を迎えます。この長きに亘り活動・運動を継続させる事が出来たのは、先輩諸兄姉がその当時に地域が抱える課題や問題に対し、先駆的且つ先導的な立場からご活躍し、結果を残してこられたからに外なりません。
 私たちは現在も展開されている継続事業を、現代の世相、地域運動の担い手の現状など総合的に鑑みながら時代に合った形で継承し、幾十年に亘って積み上げてこられた活動・運動と69年分の想いに心から敬意を表するとともに、その足跡を辿りながら、佐賀青年会議所の運動の本質に今一度立ち返り、70周年という記念すべき大きな節目に盤石な体制で臨むことができるよう、その準備に取り組みます。
AIやIoT、分散型ネットワークなど日々進歩するテクノロジーは、世の中をフラット化し情報格差の壁を取り払い、個人誰しもがメディア化し得る環境を供与し、私たちの会議所としての活動の質と量を担保する一定の役割を果たしています。私たちはこの強力なツールを、あくまでツールとして、明るい豊かな社会の実現を目指すJAYCEE、そしてその集合体である青年会議所の活動を加速させるために積極的に活用し、また70周年という節目にそれらを用いた新たな佐賀青年会議所の形を提示していきたいと考えています。
 一方で私たちは、県全体でも人口80万人を割る小さな地域でありながら、交通、防衛、漁業など顕在化している大きな課題に向き合い、またその先には国際、社会福祉、経済などという相対的には潜在化しているものの、よりクリティカルな課題にも向き合う必要があると考えています。具体的な取り組みとして、首長選挙公開討論会事業は、地域住民がそのリーダーを決める上で今も重要な役割を担っており、全国大会主管年度だからこそ、佐賀青年会議所の核ともいえる当該事業などを積極的に実施してまいります。
 私たちは、地域を取り巻く様々な課題に真向に向き合い、社会により良い変化をもたらすためのリーダーシップの開発と成長の機会を提供するという会議所活動の本旨に立ち返ることが重要であることを改めて認識する必要があります。設立65周年の際に、佐賀青年会議所70周年に向けての活動指針を策定しましたが、その効果測定、検証を確りと行う事により、今後の佐賀青年会議所の在るべき姿がより鮮明に見えてくるものと考えています。不易流行の精神をもって70周年からの佐賀青年会議所の在り方を今一度再考し、またそこから生まれたエッセンスが、全国大会主管に於ける私たちの姿勢や取り組みにも有機的に結びつくことを期待します。



まちづくりについて

 私たちは言うまでもなく、青年会議所の一員として臆することなく主導的に運動を展開し、地域変革のイノベーターとしてその年輪を刻んでまいりました。青年会議所のメンバーは40歳という節目に卒業を迎え、そこで培ったリーダーシップ、知見、人脈をもとに、それぞれが新たなフィールドで活躍し、良い影響を地域に伝播させ、地域により大きなインパクトを与え続けています。
 事業についてはどうでしょうか。私たちは単に事業を主催する"業者"ではありません。地域課題にいち早くスポットライトを当て、私たちだからこそ出来る事業を実施し、地域に良い影響、そのような運動が地域に必要であるという事を人々に周知します。単年度の事業が継続的な運動に昇華され、その事業が明らかに地域にとり必要なものであり、また他団体や個人においても再現可能なフェーズに入ったあかつきには、それはもはや私たちの手を離れ、その運動に参画したいという自発的なプレイヤーがそのバトンを受け取り、より一層の公共性、公益性を帯びて地域に根付くものだと考えています。
 私たちは今も数々の事業を、佐賀青年会議所の先輩諸兄姉の想いとともに継続的に実施しています。漫然と盲目的に事業を今年もこなす、という事ではなく、今の佐賀青年会議所が地域にとり真に期待されている事、姿は何なのか、佐賀青年会議所を構成する諸事業のその始まりと経緯、そしてこれからの在り方について一度立ち止まって検証をする必要があると考えています。
 佐賀青年会議所がその黎明期から携わってきた佐賀城下栄の国まつりは、来年で第54回を数える夏の風物詩として、地域の方々に今も愛され続けています。一方、地球温暖化による開催時間繰り下げや開催期間の見直し、地域児童参加型コンテンツの減少、物価高騰による花火大会への影響など、行政主導の夏祭りは既存の枠組みに当てはめての開催が徐々に困難になり、実際に来年はその開催時期を8月から5月へ変更することとなっています。私たちは、何が祭りを祭りたらしめているのか、限られたリソースをもとに、地域に必要な運動を展開するためにどのように資源配分を行うべきなのか、50年以上に亘り開催されているその歴史の重み、共に歩んできた佐賀青年会議所並びに先輩方の想い、今まであまり触れられなかった本質的な議論も含め果敢に切り込み、行政はじめ様々な関係者、団体と手を携えながら、より良いまちづくり事業を模索してまいります。


外部連携について

 佐賀青年会議所はその設立以来様々な運動を展開してきましたが、その成功のカギは、日本青年会議所、九州地区協議会、佐賀ブロック協議会を始めとする全国のJAYCEE、そして、より良い地域、人づくりのために運動を展開する行政機関や教育機関、市民活動団体や企業などの協力があったからと言って過言ではないでしょう。
 度々言及している通り、2025年10月には公益社団法人日本青年会議所第74回全国大会佐賀大会が佐賀の地で開催されますが、その主管にあたっては、例年に比して一層濃密なコミュニケーションを取り、特に佐賀ブロック協議会並びに佐賀県内各LOMとは、大会期間中には全県的に地域を盛り上げ、主催の日本青年会議所事業の有効性を高める一助となるようなコンテンツを協働しながら設ける取り組みを推進したいと考えています。また、台南市新營國際青年商會、環有明LOM会議、薩長土肥の会など友好関係にある各LOMとも、改めてその連携を強固なものとしていくような交流を行いたいと考えています。
 また、佐賀青年会議所はその運動の積み重ねにより、県内様々な行政機関との人材交流、事業共催など一定の連携体制が確立されています。大会主管決定前から首長以下多くの方々にお支えの言葉やサポートを頂いていますが、記念事業を含む諸事業実施に際し、定点的な意見交換の場を設け、地域益をより大きなものとし、また大会終了後も持続的に好影響を及ぼすため事業の精度を高めてまいります。
さらに、従前から交流のある教育機関や市民活動団体とも積極的に意見交換を行い、全国大会の開催が全国のJAYCEEに限らず、地域の事業者、一般市民、そして学生らにとっても、それぞれの立場としての成長の機会を提供できるようにしたいと考えています。
 そして、佐賀では、佐賀ブロック協議会を含む佐賀県友好青年5団体がそれぞれの目的に向け日々活動をされています。佐賀の魅力の一つに、あらゆる点においてコンパクトである、という点が挙げられます。事業や人材交流が盛んである青年団体の特性を生かし、他団体の方にも全国大会主管その趣旨と可能性を確りとPRし、大会開催中に団体の枠を超えて協力、協働いただける、そのような体制を構築したいと考えております。本大会主管が佐賀に於けるMICE招致と開催の好事例となり、これが契機となって他団体でも大会等招致を検討するような機運が醸成され、またその際には佐賀青年会議所がその開催に協力、結果として佐賀により多くの益がもたらされるような将来の地域の姿を期待しています。



総務、規則等について

 青年会議所が有効な運動を展開するためには、バックオフィスとしての総務の活躍が欠かせないという事を私は知っています。効率的な会議運営並びに事業推進のためには、スムーズな議事進行、そして精緻な議案の作成やその精査が必要であり、根幹を担うのは総務であり、その力が不可欠です。
 私は総務委員会には、事業計画並びに報告に於ける縁の下の力持ちとして、また佐賀青年会議所の活動の質を担保する番人として、そして各委員会を結び付け会議所活動の好循環を生み出す調整弁として、
臆することなく活動、発信をしてもらいたいと考えています。今年は公益社団法人日本青年会議所全国大会運営会議と議案を通じたやり取りが多く生じることも考慮し、規則面や財政面、広報面それぞれについて新たに理事を設けるなどし、そのスムーズな連携を推進してまいります。また、私たちの青年会議所活動の根拠としての定款においても、時代の変化に伴い適宜ブラッシュアップをしていく必要があると考えており、定款並びに各種規定についてその設置背景を確りと考証しながら、その見直しも行いたいと考えています。


結びに

 2025年10月、佐賀青年会議所69年の歴史で初めて、全国大会の主管が行われます。これまでの全ての先輩諸兄姉、そして現役メンバーの不断の努力の上にこのような千載一遇の機会を賜る事が出来たことに改めて感謝いたします。
 佐賀青年会議所をはじめ、佐賀ブロック協議会、九州地区協議会、日本青年会議所 全国大会運営会議など多くのJAYCEE、そして全国大会開催を取り巻く全てのステークホルダーが様々な場で活動、活躍されることが期待される中で、是非とも、"美点凝視"の姿勢で、皆さんと活動に臨みたいと考えています。それぞれの立場や見えない努力に思いを馳せ、また自身に驕りが無いか内省しながら、互いを尊重し、一致団結して取り組む、全国大会佐賀大会主管という立場で、全てのJAYCEEにとりその活動の起爆剤となるような事業の一助となるため全力を尽くしてまいります。
 会議を、対話を決して諦めることなく継続した先に見えるものが、地域課題に対する解決策となり、明るい豊かな社会の実現、そして会員一人一人の成長と深い絆を生み出すために欠かせない要素なのであると確信しています。



Imagine
~想像の翼で未来を創造しよう~

 多くの方が、佐賀のこれまでを教えてくれました。今度は私たちが、皆さんに佐賀のこれからを伝える番です。頑張っていきましょう。

一般社団法人佐賀青年会議所
第70代理事長 古賀修平